唯一無二の芸術作品 陶彩画家 草場一壽

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2024年12月1日から8日までの間、キャットストリートで開催される「2024年 草場一壽 陶彩画 新作展」。他に似た作品のない、自分らしさを追求した表現をし続ける佐賀県在住の陶彩画家の草場一壽さんにインタビューをさせていただきました。作品に込めている想いや、これからのこと、たくさんお話しいただきました。

▲2023年 新作 陶彩画『大好き』

唯一無二の芸術作品、陶彩画

ーー陶彩画の説明をお願いします
「端的に言うと、焼き物の絵画ですね。キャンバスの代わりに陶板を使っています。平らにしたタイル状の焼き物の板、それが陶板です。その上に、焼き物専用の絵の具である釉薬で絵付けをして釜入れし、また絵付けをして釜入れし、とこれを15回くらい繰り返し一つの作品になっています」

「私の住んでいる佐賀県は、昔から焼き物が主要産業です。佐賀県出身の私が一度東京に出て、再度佐賀に戻ってきたのが約35年前。陶彩画を始めたときにはまだ300件ぐらいの窯元があって、世界中に焼き物を輸出していました。有田焼という400年の伝統工芸の歴史の上にそれを使って何かできないかっていうことで、絵画的な表現で試行錯誤を繰り返しているのが陶彩画です」

ーー絵画は小さな頃からやられていたんですか?
「専門で習ったことはないんです。ただ幼稚園のときから母が自宅を使って、美大生を先生に、近くの子ども向けに絵画教室を開いてくれていました。それが絵との最初の出会いです。中学・高校の時は運動部に所属していたのですが、美術部の展覧会に出展していました。絵といっても映画を作るときでも、建築をするときでも、最初は絵から始まりますからね。それがどういう形であれ、自分の思考を表すのに絵で表すことにしています」

「大学で東京に出てからは、日本大学芸術学部で演劇の脚本とか舞台演出の勉強をしていました。いろんな物語をどういうふうに形に変えていくかっていうことを学んでいたので、1時間の映画作品と同じように、1枚の作品でも1時間興味深く見続けられる作品を作りたいなっていうのが根底にあります」

ー私もすごく絵が好きなので、絵、上手くなりたいと日々思っています
「今、ワークショップを全国で展開してるんですけれど。今の人たちは、上手に描くことを小さいときから強いられていると思っています。絵っていうのはやっぱり自己表現なんで、描いていて楽しいっていうのが根源にないといけないのに、ここで採点をしてしまったために、みんなが描けないって思い込んでるのだと思います。技術はやればやるだけついてくるんで、まずは自分が何を表現したいのかっていう自分の心の中にある想いっていうのを、殴り書きでもいいし、抽象的なものでもいいし、とにかく表現していくっていうことがすごく大切だと思ってます」

構想から制作まで

ーー構想から制作まで、どういった感じで作るのでしょうか?
「焼き物でしか出せない色っていうのを、出そうと思ってやっています。その中で代表作の「イマジンブルー」という青い作品があるんですけれど、それなんかは絵の前に立ったときに、深い海の中とも言えず、宇宙とも言えず、そういうあの深いところに内側から広がっていくような「感覚」っていうのを大切に作っています」

▲代表作『イマジンブルー』

ーー1つの作品を作るのにどれくらいの時間がかかるんですか?
「デザインと設計図を書いて、一つの作品を作るのに最低1年はかかります。構想からだと大体2、3年ぐらい温めて、いろいろ下調べをしたり、自分の思いがどこから来てるのかとかを考えたりします。歴史や神話の世界なんかだと、もっと深いところですね。やってないと、ただのお絵描きみたいになってしまうので」

ーー神話って面白いですね
「私が神話に興味を持つのは、それが真実か真実じゃないかっていうことは関係なくて。日本の神話で言うと、1300年ぐらい前に古事記っていうのが編纂されたんですが、中国から文字が入ってきて、初めて文字起こしをしたんですね。それまでは口伝って言って、長老がみんなに言葉で伝えてた時代が何万年もありました。文字っていうのはすごい文明の利器のようにみんな感じるんですけど、人によって受け取り方が全然違うんです。言葉は万能のようだけど、言葉ほど曖昧なものはない。口伝で物語を聞かせるっていうことは、その言葉に乗った思いと心のバイブレーションが直接伝わるから、イメージも本で読むよりも広がっていくわけです。そういうのを世界中回って、先住民というネイティブの人たちと会うと、文字よりも話して伝えることの凄さを感じました」

「日本人っていうのは宗教を持たないとか信仰心がないっていうけど、文化そのものがもう信仰であり宗教であると思います。季節ごとに節句っていうのがあるし、みんな神様を信じてるか信じてないかは知らないけれど、神社に参拝や初詣に行く。それはもう既に生活の中に当たり前のように根付いているからこそ、何千年という間、生活の中に文化として溶け込んでいる証だと思ってます。ただ、歴史を調べていくと、地方の豪族や権力者たちが作った歴史があり、いろんな見方があることに気付きました。光り輝いている歴史の裏側に悲しいお話もありますよっていうところも知ることができて、どっちが良くてどっちが悪いということを決めることはできません。ただ、こういった歴史っていうのは存在しているっていうことを神話を通して知ってもらいたいなっていうのがすごくありますね」

▲作品名:『富士に虹龍~希望の地へ~』

作品に込める思い

ーー草場さんが作品を作る上で持つ大きなテーマ、「いのち」にはどんな思いが込められているんですか?
「陶彩画が確立できるまでには、近くの保育園で11年間、絵の指導を行っていました。昔、母のやっていた絵画教室の先生が何も言わずに、ただニコニコ見守ってくれる先生でそれが非常に心地よかったんです。その先生を見習って、私は何も言わずに、もう好きに表現させたら、1年後にはどんどんと素晴らしい絵を書くようになってきたのを見てきました。今の子どもたちは上手に描かなきゃいけないとか、お母さんの目とか先生の目とか、褒められたいとか、あの子は上手なのに私は書けないとかっていう、絵を書いて楽しむっていうことよりも、周りの目をすごく気にする子どもが多いんです。それで結局嫌いになったり表現することが難しくなったりしている気がしていています」

「ここからやっぱり人というのは人と比べて自分を追い込んでるんだな、自分を生きてないんだなっていうことを子どもたちを通してよく理解できました。3歳児とか5歳児っていう、自分の潜在意識のギリギリで、自分自身を作り上げていく感情を作るタイミングに立ち会えて、それを見せてくれたというのが私の今のバックボーンになってます。そんなちょうど私が教えてた頃に、周りでは、子どもが子どもを殺傷する事件が連鎖的にたくさん起こっていました。命がなぜ大切なのか、命はなぜ守らなきゃいけないのかっていうことを教える教材もなければ、みんなに伝えられる先生もいなかったんです。そこで「いのちのまつり」という絵本を作りました。それが大ベストセラーになって、Amazonで全ての本のなかの1位になりました。いのちに関して5冊の絵本を作って、5冊とも学校の道徳の教科書になってるのでみなさんどこかで見たと思います」

「映画を撮ったり、エッセイ書いたり、本を作ったり、陶彩画を描いたりするものも、全部「いのち」というところに行き着くんです。自分が今ここに、存在しているっていうのは、宇宙ができたときから全てが繋がりあって、そして奇跡的に自分というものを生み出している。その繋がりとか、いのちの尊さ、奇跡的に存在するっていうことを伝えたくて。世に対して私はあなたがここに存在することっていうことが一番重要だっていうところを伝えたくて「いのち」って言ってるんです。今は、ハビングって何を持ってるかどんな資格を持ってるか、お金を持ってるか、何ができるか、それが評価になっています。だけど僕は、ビーイングっていう、あなたがここに存在しているってことがどれだけ奇跡的であり、それが世界ひいては宇宙の調和まであなたがいるっていうことが一番重要なんだっていうことを伝えたくて創作活動しています」

ーーそのきっかけは?
「20歳ぐらいのときからインドを始め、たくさんの国々を回っていきながら、日本の素晴らしさも感じ、また日本が負けているところもたくさん感じました。やっぱり日本を語れなかったら世界には行けないっていうことを強烈に痛感しましたね。日本のことを何にも知らないと海外に行って話せないんですよね。私達の歴史のこととか、そういうことをやっぱり聞かれたときに答えられるようにしようと思いました」

ーーそういった思いをどうして陶彩画に落とし込もうと思ったんですか?
「最初は東京で仕事をやってたんですけれども、帰ったところが、有田焼という400年も続く日本で一番大きな焼き物の地場産業がある場所だったんです。まずはそれを使って何か新しいことができないかっていうことを考えたのが始まりです。伝統工芸がどんどんともう廃れていくっていうのは直感でわかっていましたが、どんどん機械化されていって海外で作らせたものを有田焼にして販売しているっていうところにすごく違和感を感じました。生活様式もどんどん変わってくる中で有田焼を始め、全ての伝統工芸が絶滅期なんですね。陶板に絵を描いて壁に貼るっていうのは、これまでにもあるんですけれども、極彩色で何十回も釜に入れて、絵画的に今までなかったような表現を試みたっていうところが特徴です。伝統工芸を継続したいという思いが、陶彩画が何十年も続いてきた理由じゃないかなと思います」

2024年新作展

ーー2024年新作展について教えてください
「昨年もキャットストリート沿いの会場で個展をやりましたし、もう20年ぐらいはずっと東京で個展をやってます。以前は銀座のビルを1棟借り切ってそこにあったギャラリーで個展をやってました」

ーー新作 銀河シリーズのメッセージより、生物が「かくありたい」という思いを表現されているとのことだったのですが、逆に草場さんご自身が「かくありたい」と思う像であったり、イメージなどはありますか?
「みんな助け合って自立はされているんですけれども、まずは一つの生命体として自立するっていうことですね。特に今の人たちって、ものすごく文明が進んでいて、僕らが小さい頃に見た手塚治虫さんの鉄腕アトムとかの世界が本当に目の前に現れているわけです。じゃあみんなそれで幸せになってるのかっていうと、東京を始め大都市でお仕事をしている人たちは、何が幸せで、自分の夢が何なのか、どう生きるのかっていうのを見失ってる人たちの方がすごく多くて。科学技術は進んでるようだけれど、自分で作ってるわけでも何でもないし。機械に支配されてるような、文明の奴隷っていうか。ただそれを買って受け入れて使って、本来自分たちでできていたことがどんどんできなくなっているということを非常に僕は人間らしくないなって思っています。人間は、自然に対して感謝しながら同調していく、常に畏敬と畏怖の念を持っているっていうのが根源にある。そういうところを神話や絵を使って、みんなに発信したいなっていう思いはすごくあります」

ーー新作 四天王シリーズのメッセージより、神話がテーマになっている作品について、過去作にも様々な国の神話があるように見受けられました。そういった神様はどうやって見つけているんですか?
「国宝の四天王っていうものを見たときに、力には力でもって対抗するっていうのが何千年と続いてきていることを感じました。無敵、敵を作らない生き方っていうことで、新しい鬼の形相をしたものから、どれが新しい生き方なんだろうかなっていうことを意識しながら今回の作品は作ってます。小さい時から男らしくしなさい、女らしくしなさいっていうことをよく言われたんですけど。男か女かの二極に分けてしまうところっていうのが、今までの価値観としてあったわけです。それ自体も今の時代としては、あなたらしくというよりも、「あなたそのものにいなさい」というのが本当の、今からの時代なのではないだろうかと思い、今回思い切って四天王をああいう形で表現させていただきました」

ーー最後に、今後の展望について教えてください
「あんまり望みもないですけれど、淡々と湧き出てくるものをキャッチしながら、最善を尽くしてやっていくという感じですね。惰性で作りたくなくなってるんで、どんどんと自分自身も正直でありたいなって思っています。何が大切かっていうと、中から湧き出てくるもの、それを表に出すエネルギーがすごく大切なんですね。やり遂げるっていうエネルギーやポテンシャルがやっぱりすごく大切だなっていうのは、38年間やってきた一つの結論なんですね。みんなイメージは持ってるけど、行動に移さなくなってきてきましたよね。今、私達はしっかりと行動っていうところで表現をしていく。これは絵を書くとかアーティストになれとかっていうようなことではなくて、人生こそ自分で作り上げていくものであって、未来を誰かが与えてくれるわけではないので。「あなたが未来そのものである」というそういうことが伝わるような題材に出会ったときに、また新しい作品が生まれるんじゃないかなと思ってます」

取材を終えて

唯一無二の芸術作品である陶彩画は、画面越しでも迫力が伝わってくるものばかりでした。草場さんのお話を聞いて、表現活動をする上での自分らしさをもう一度見つめ直そうと思うきっかけになりました。今回はオンラインでの取材だったので、新作展で直接みられるのが楽しみです。

最後に筆者の一首
「気付かない 誰かじゃなくて自分だけ 見えないものを形にしてく 」

◾️ 草場 一壽
1960年、佐賀県は佐賀市神野町に誕生。
幼少より動物や自然など、「いのち」の営みに興味を抱き育つ。
アーティストとして何かを表現する楽しさに目覚めて日本大学芸術学部演劇学科に入学するが、表現ソースとしての経験・体験の不足を痛感し、大学を中退してアジアを中心に4年ほどバックパッカーとして旅をする。その過程で、見慣れたはずのものさえ新鮮に思われるという体験を重ね、「みんな生きてるんだ!」という感動に心打たれて、改めて「いのちの輝き」を表現するアーティストになることを決意する。

故郷の有田焼の技術を用いた焼き物の絵画、陶彩画のビジョンを持って帰郷するが、有田中の窯元に実現不可能だと断られ続ける。最終的に、緻密な絵付けで高名な葉山有樹氏に「おもしろいではないか」と受け入れられ、1987年に27歳で葉山氏の工房に入り、陶彩画実現のための研究を始めた。従来の有田焼は絵付け・焼成を最大で4回程度しか耐えられなかったが、より深く鮮やかな色彩を実現しようとこだわり、試行錯誤の末に十数回絵付けと焼成を繰り返すことに成功。1990年に独立し、佐賀県武雄市山内町で工房「今心」を立ち上げて陶彩画の創作活動を開始した。

その後も、より深く美しい色と輝きを求めて研究を続け、作品制作の傍ら、技法や画題の研究のためにインドやモンゴル、敦煌など各地を訪問・遊学。アーティストとして着々と成長を続け、各地で個展を開くようになり、2003年に草場一壽工房と名を改め、翌年には工房直営のギャラリーを佐賀に開館。また、子どもの殺傷事件が相次いだことに心を痛め、いのちの尊さを子どもに伝えたいとの思いから、絵本「いのちのまつり」シリーズを執筆した。後に同書は小学校の道徳の教科書にも採用され、草場は各所から講演会に招かれるようになった。2014年に開窯25周年を記念して佐賀のギャラリーをリニューアルし現「草場一壽工房」として会館、更に2018年には、開窯30周年記念の一環として東京銀座5丁目にギャラリースペース「龗 GINZA OKAMI」をオープンした。2020年には還暦を記念し、「いのち」の輝きへの憧れという原点に回帰しつつ新境地を目指して、従来作品の繊細緻密な表現とは異なる大胆で遊び心溢れる「自在」シリーズを制作した。他に、力強く生きる龍の力の源、「如意宝珠」を制作するなど、陶彩画を生み出して30年以上が経つ今も、「いのち」の表現への尽きぬ情熱を原動力に、アーティストとして日々進化し続けている。

◾️2024年 草場一壽 陶彩画新作展

日程:2024年12月1日(日)~12月8日(日)
時間:10:00~18:00
入場料:無料(ご予約不要)
会場:6142(階段が多いギャラリーとなっております。各階エレベーターもございますが、予めご承知おきくださいませ)
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-14-2
HP:https://kusaba-kazuhisa.com/post-event/11970/

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