小杉湯原宿から広げる、銭湯のある豊かな暮らし   番台・石本雅代さん

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東急プラザ原宿「ハラカド」の地下1階にある銭湯「小杉湯原宿」では、多い時には1日に600人以上が湯に浸かります。原宿のシンボルの1つとなりつつある「小杉湯原宿」を、開業前から支え続けているのが、番台に立つ石本雅代さん。

みんなから「マヨさん」として親しまれている石本さんに、ご自身についてと、小杉湯原宿が1周年を迎えたことも振り返りながら、インタビューしました。

小杉湯から考えた、人とのつながり

マヨさんは元々、高円寺の「小杉湯」の常連さんだったんだとか。銭湯が好きで、気づけば「小杉湯原宿」の番台に立っていたそうです。マヨさんにとっての銭湯、小杉湯について聞いてみました。

「私は北海道で生まれ育ったんですけど、世代的に銭湯通いが日常的で、湯船に浸かる時は必ず銭湯に通っていました。それは住む場所が変わってからも変わらず、30歳で上京してから出会った銭湯が、高円寺の“小杉湯”だったんです。

小杉湯を初めて訪ねたときの衝撃は今でも覚えています。湯ざわりや小杉湯の空間そのものが、自分をお迎えしてくれているような感覚でした。
そこからほぼ毎日行くようになったんですけど、小杉湯の番頭が、3代目の平松佑介さんに継がれた時、いろんな取り組みがはじまって、そこから少しずつ番台の人と挨拶を交わしたりするようになってきました」

小杉湯に8年以上通い続けていたマヨさん。そんなマヨさんが小杉湯に関わるようになったのは、新型コロナの流行がきっかけだったそうです。

「新型コロナウイルスのパンデミックが起きて、人との関わりがなくなった時、今まで人を軸に生きていた私にとって、自分の事を考えるいいきっかけになったんです。コロナを通し、自分の人生を見つめ直して、自分にとって大切なことは何か、はじめて自分に向き合えた時間でした。
そんな時に小杉湯のスタッフさんに声をかけてもらったんです。コロナ禍で先の未来に悩んでいた中、ふと「自分の銭湯があったら良いな」と思っていた矢先だったので、一歩踏み出して「やります!!」と言ったことが今につながっています」

小杉湯原宿から、銭湯のある豊かな社会を

▲1周年パーティーで話す番頭の関根江里子さんと代表の平松佑介さん

小杉湯原宿は、今年の4月に1周年を迎えました。原宿表参道新聞も招待された、1周年記念パーティーで印象的だったのが、番頭の関根さんを声援するマヨさん。
1周年を迎えた小杉湯原宿に深い想いを持つマヨさんが、1周年を通して何を感じたのか聞いてみました。

「まだ1年かっていう気持ちと、もう1年かっていう気持ちが両方ありましたね。原宿の商業施設にある銭湯だからこそ、日々何事もなくオープンして、時間になったら終わる。それが日常であって、それを守るのが銭湯で一番大切だと思ってこの1年やってきました。
その中で、来てくださるお客さんの愛情や応援を感じる事が日々の中であって、何気ない嬉しい事がたくさんありましたね」

1周年の記念パーティーで、まだまだ街の銭湯にはなれていないと話したのは、小杉湯原宿の番頭、関根さん。マヨさんは、これから小杉湯原宿がどうなってほしいと思っているのでしょうか。

「お風呂のある生活ってすごく豊かだし、やっぱり街に銭湯は必要だなって思っています。だからこそ、10年、100年経っても、原宿の街に小杉湯はあり続けると信じているし、実現できると思っています。
そして、私たちと同じような想いを持つ人々が増えたり、今ある銭湯が続いていたり、新たに銭湯が増えていてほしいなって思います。
銭湯だけじゃなくて、ずっとある喫茶店とか、街角の本屋さんとか、いろんなものが街には必要で、なくなったらみんな残念がるものだと思います。そうじゃなくて、なくなる前から、暮らしに入れていけるような社会を、小杉湯原宿から広めて行きたいです」

▲1周年記念パーティーの集合写真。ここにマヨさんも筆者も写っています。

銭湯の営みを通して、原宿の街に深く関わるようになったマヨさん。最後に、番台を通して感じた原宿の良さと、原宿のこれからについてお聞きしました。

「原宿は暮らしがすごく近いと思います。若者や外国人観光客が来る街である一方、裏路地に入れば地域に暮らす人が割と近場に住んでいて、ちゃんと“街”だし、高円寺と近しいものを感じます。地域に根ざせば根ざすほど、みんながこの街を良くしようとして、大切にしようとする想いがすごく伝わってきます。

一方で、外からいろんな人が来て、流行の最先端の街の地下1階に、裸になる銭湯があるのは、本当に奇跡だと思うんです!(笑)
 この日常は決して当たり前じゃない。だからこそ、時代の流れを受け入れつつも、今の暮らしや地域のつながりなど、変わらない部分は変わらないままでいる原宿であれば良いなって思います」

小杉湯原宿に来ると、様々な番台の方がいて、“今日はどんな人がいるんだろう”と考えるのも銭湯の楽しみの1つですが、普段何気なく接する番台の方をじっくり取材できたのは、とても新鮮でした。マヨさんのように、これからも銭湯を生活の1つに取り入れて、大切にしていきたいですね。

◾️石本雅代 略歴
小杉湯原宿スタッフ 高円寺への移住をきっかけに通い始めた小杉湯で、縁あって2020年より勤務。現在は、原宿に拠点を移し「小杉湯原宿」の運営を主軸に、銭湯が持つ無限の可能性を信じ、その未来を仲間と共に形づくるため、日々奮闘している。

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