
2026年3月2日、原宿。春を待つ少し冷たい風が吹く月曜日、私は竹下通りの喧騒を抜け、明治通り沿いにある「ビームス原宿」の前に立っていました。そこには、いつもの風景とは違う、どこか張り詰めた、それでいて祝祭前夜のような高揚感が漂っていました。
「ビームス、創業50周年」
この大きな節目を祝う記者発表会が、あえて「創業の地」であるここ原宿で開催されました。原宿表参道新聞のライターとして、そして「渋谷まちづくり隊」の一員としてBEAMSの社員さんも参加してくれている「原宿お祭りプロジェクト」を牽引する一人として、私はその歴史的な瞬間に立ち会いました。

会場に一歩足を踏み入れれば、そこには驚くべき光景が広がっていました。最新のファッションが並ぶ店内に設置された記者発表用ステージのモニターに、突如として現れた「6.5坪」の木造りの空間。それは100枚以上のアーカイブ資料や証言をもとにVR空間で再現された、1976年当時の1号店「American Life Shop BEAMS」の動画でした。
この小さな、たった6.5坪の「好き」という初期衝動から、日本の、そして世界のカルチャーを塗り替える物語が始まったのです。
50年の重みを「コミュニティ」へと昇華させる決意

記者発表会が始まり、登壇した池内専務は、ビームスの50年を振り返りながら、これからの半世紀を見据えた「新しいビジョン」について語りました。
これまでBEAMSが掲げてきた「ハッピー ライフ ソリューション カンパニー」という言葉を、2024年末から「ハッピー ライフ ソリューション コミュニティーズ」へと進化させたといいます。
「会社という事業体にとどまらず、もっと広く様々な人を巻き込んだコミュニティになっていく」。
その決意を裏付けるように、発表された「3つの周年記念事業」はどれも、単なる物販の枠を超えた「繋がり」を重視したものでした。
- グローバル事業(ロサンゼルス進出): 創業の原点である西海岸へ。約1250平方メートルの大型路面店を通じて、BEAMSの知見をグローバルに還流させます。
- 新レーベル事業(BEAMS HEART刷新): EC中心から「店舗での体験」を重視するライフスタイル業態へ転換。全国10店舗を順次オープンします。
- 人的資本活用事業(BEAMS digroo): スタッフ約250名の愛用品をエピソードと共に販売する公式リセールサービス。スタッフの「目利き力」という資産を循環させます。
設楽洋社長インタビュー 原宿に「育てられた」50年の情熱

記者発表の後、私は設楽社長に、経営者として、そして原宿という街を50年間見守り続けてきた「当事者」としての想いを伺うことができました。
設楽社長は、原宿の特殊性について語り始めました。
「原宿は、新たな文化が非常に生まれやすい場所。ローラー族、タケノコ族、ゴスロリ……これらは出ては消えるけれど、必ず後に残るものがある」
その時代の空気の「一番最初の旬」に立ち会うため、あえて家賃の高い原宿にオフィスを構え続けてきたといいます。
来月75歳を迎える設楽社長は、「地元に貢献というよりも、逆に地元に貢献されてビームスが育っているという思いがすごくある」と、謙虚な感謝を口にされました。
8割は「業界外」の人と会う!アンテナを研ぎ澄ます「プレイヤー」の視点
設楽社長は、今でも自身が「一番遊んでいる」と笑います。交流の8割をファッション業界以外の人々と持つことで、主婦、ギャル、音楽業界など、多様なコミュニティのトレンドを肌で感じ、社会全体の大きな流れを見極めているのです。
その「熱量」を社員に伝える方法も、デジタルとアナログを融合させた情熱的なものです。
「部長を通した伝言ゲームでは熱が伝わらない。だから大事なことは動画などで、自分の言葉と表情で伝える。リーダーにとって一番大事なのは『モチベーションをデザインする』こと。情熱の芽を植えていくことなんです」
75歳にしてなお、SNSで自らのライフスタイルを発信し、最前線に立ち続ける。その「見える化」されたリーダーシップこそが、BEAMSの圧倒的なワクワク感の源泉なのだと感じました。
対話の中で特に印象的だったのは、デジタル全盛時代における実店舗の価値についてです。
「実店舗の価値は、スタッフとの『無駄話』にこそある」と、設楽社長は力強く語ります。
だからこそ店舗は、単なる物売りの場ではなく、志を共にする人々が集まる「コミュニティの基地」であるべきだという信念。
その言葉には、50年をかけて原宿のストリートを見つめ続けてきた経営者の確信が満ちていました。

池内光専務インタビュー 「無駄話」という名のクリエイティブ・ハック
続いて、池内専務にもお話を伺いました。最近採用面談を通じて今の若者への認識が変わったといいます。
「『無気力世代』なんて言われるけれど、全くそんなことはない。むしろ自分たちがやりたいことや社会貢献への思いを具体的に語る熱量がある」と断言されました。
そして、ビームス社員の皆さんも参加頂いている「原宿お祭りプロジェクト※1」を通じて学生たちに何を「盗んで」ほしいかという問いに対し、BEAMSの強さの核となる回答をいただきました。
「仕事と遊びの境界線をなくすこと」
池内専務は語ります。
「うちのスタッフを見ていて感じるのは、楽しみながら仕事をしている、あるいは遊んでいるような状態で、それが空気としての盛り上がりや楽しさを作っていく。仕事は仕事、遊び遊びと切り分けすぎると、仕事は辛いものという感覚になっちゃう。それはもったいない」
ビームスには、設楽社長が提唱する「レイバー(労働者)」「ワーカー(仕事人)」から「プレイヤー(エンターテイナー)」へという段階的なステップがあります。確実な作業力を持つ「レイバー」であり、自ら考え動く「ワーカー」であることを前提としつつ、最終的にはプロの選手のように楽しみながら価値を生む「プレイヤー」であることを求めているのです。
「プロの野球選手のように、楽しみながら自分の得意なものを生かして働くのが、最高の仕事人の形。まさに『プレイ(遊び)』と仕事が重なり合っている状況です。BEAMSにはそれができているスタッフが本当に多い」
池内専務が学生に最も盗んでほしいと願うもの。それは、単なるイベント運営のノウハウではありません。
「自分の『好き』や『得意』を、周囲を巻き込むほどの熱量(遊び心)へと昇華させ、それを確実な仕事として成立させるプロの姿勢」です。
この「プレイヤー精神」が現場に浸透しているからこそ、設楽社長の言う「無駄話」が単なる雑談に終わらず、クリエイティブな価値を持つセッションになるのだと確信しました。
※1原宿お祭りプロジェクト決起会の様子はこちら

原宿という「舞台」を次世代へ !ノーと言わない文化の継承
かつての原宿は、若者が小さな店を出しやすい「アメリカンドリーム」のチャンスがあった場所でした。しかし地価が高騰した今、若者が独力で旗を揚げるのは困難です。
「だからこそ、大手が手を貸してあげたり、若手にチャンスを与えることが大事。ビームス社内でも若手の直接提案から店舗が実現したりしています。『ノーと言わない文化』を、街全体で作っていきたい」。
現在私たちが進めている「原宿お祭りプロジェクト」も、まさにその一つの形です。BEAMSの社員、地域の人々、そして「渋谷まちづくり隊」に集まる学生。属性の異なる人々が、属性を横断してしっかりミックスされる。それこそが、次の50年を創る原動力になります。

アーカイブとVR !過去を「体験」に変える編集力
今回の50周年では、最新技術を駆使した試みも目を引きました。1976年創業時の店舗をVRで3D再現し、VRChat上で公開するというのです。
「これまで断片的なイメージでしかなかった1号店が、初めて、色鮮やかに立体再現された」。
これは単なる懐古趣味ではありません。2026年3月3日にリニューアルオープンする「ビームス 原宿」の1階の床には、かつての6.5坪のエリアを示すリベットが打ち込まれています。物理的な店舗に立ちながら、VRで当時の熱気を確認する。過去と現在を重層的に体験させるこの手法は、まさに「歴史を編集する」BEAMSの真骨頂です。
また、年間で250種を超えるという「記念別注アイテム」の展示も見事でした。ChampionやJANSPORTといったブランドとのコラボレーション。そこには、相手ブランドへの深いリスペクトと、BEAMSらしい遊び心が同居していました。

次の50年へ。「楽しいまま、世界へ。」
取材を終え、原宿を歩きながら、私はお二人の言葉を噛み締めていました。
「Ready, Happy, Go! 楽しいまま、世界へ。」
このスローガンは、50年間カルチャーの最前線を走り続けてきた彼らが言うとき、「楽しさを維持するために、誰よりも真剣に、クリエイティブに挑み続ける」という覚悟に聞こえます。
私たちが「渋谷まちづくり隊」として進めるプロジェクトも、このBEAMSの巨大なエネルギーの中にあります。学生たちが、プロフェッショナルと「無駄話」を交わし、街の人々と「ライブハウス」のような熱い場を創り上げる。そのプロセスこそが、これからの原宿を、世界で最もハッピーな「コミュニティ」にしていくのだと信じています。
6.5坪から始まった物語は、今や世界を包み込む大きな「体温」になりました。
Ready, Happy, Go!
BEAMSの皆さん、50周年、本当におめでとうございます。
原宿の街の公式記録として、そして共に未来を創るパートナーとして、これからもその「楽しい挑戦」を、全力で応援し続けたいと思います。

あとがき
今回の取材で心に響いたのは、設楽社長の「モチベーションをデザインする」という言葉でした。若者の「情熱の芽」をどう育むか。
BEAMSという場所が、単に服を売る場所ではなく、無駄話を通じて体温を分かち合う「基地」となっている。その「基地」から生まれる熱量こそが、不透明な時代を突き抜けていくパワーになるのだと教えられました。
「原宿表参道新聞」は、これからも街の鼓動を記録していきます。BEAMSが描く「次の50年」の景色の中に、私たちの新聞が、そしてプロジェクトに参加した学生たちの笑顔が、鮮やかに彩られていることを願っています。












