原宿から始まるCCBTフェーズ2─これからの公共とコモンズ

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原宿に拠点を移したCCBT(シビック・クリエイティブ・ベース東京)が、第2フェーズをスタートさせました。
2025年12月13日にそのキックオフとして行われたトークイベントには、建築家の津川恵理さん、東京科学大学教授の野原佳代子さん、東京都副知事の宮坂学さんをゲストに迎え、CCBTクリエイティブ・ディレクターの小川秀明さんのモデレーターのもと開催されました。
言葉を交わしながら未来を考える場としてのCCBT。原宿という街で始まった新たなフェーズを、4人の対話からたどります。

原宿に移ったCCBTという場

▲CCBTクリエイティブディレクターの小川秀明さん(左)

今回のトークイベントの会場になったのはCCBTの拠点の近くにあるLIFORK HARAJUKU(WITH HARAJUKU 3F)。
CCBTは、完成された作品を展示する美術館ではなく、人が集まり、考え、試すためのラボやアトリエとして位置づけられています。小川秀明さんは、CCBTを「街の要素をつなぎ合わせる創造エンジン」と表現しました。
渋谷から原宿へと拠点を移したことで、よりストリートに近い文脈の中で活動を展開していくフェーズに入ったといいます。ファッションやカルチャーが日常的に更新されてきた原宿という場所は、完成形を提示するよりも、未完成な問いを開き続ける試みに適した街です。CCBTフェーズ2のキックオフとして行われた本イベントは、そうした場を議論する時間となりました。

▲会場になったWITH HARAJUKU(手前に見えるのはCCBTの新拠点が入る1/1(ONE) HARAJUKU “K”)

津川恵理が向き合う公共空間

▲CCBTの今年度アーティスト・フェローメンターでもある建築家の津川恵理さん(ALTEMY代表)

津川恵理さんからは、公共空間に関わる自身のプロジェクトが紹介されました。ニューヨークでの設計経験や、神戸・三宮駅前広場の設計を通じて一貫しているのは、「全員が違う」という前提に立つことだといいます。
誰もが同じように使う空間ではなく、それぞれが自分の身体感覚に合った場所を選べること。この広場を見た東京科学大学の伊藤亜紗さんは「マジョリティーの解体」と表現されたそうです。高さや向きの異なる要素を持つ広場では、人の数だけ過ごし方が生まれ、時に想定外の使われ方も現れます。管理やルールで行動を規定するのではなく、選ぶ自由を残すことこそが、公共空間の豊かさにつながるという考えです。

渋谷公園通り2040とマチエール

話題は、渋谷公園通り2040デザインコンペで最優秀賞を受賞した提案へと移りました。津川さんが掲げたキーワードは「マチエール」。素材の質感や空気感といった、実際にその場に立たなければ分からない価値を、都市の中にどう組み込むかが問われました。
道路を単なる交通インフラとしてではなく、人が滞在し、表現し、関係を生み出す場として再構成する。尾根地形という渋谷公園通りの特性を活かしながら、フラットな面や微地形を挿入することで、人の居場所を生み出していく構想が語られました。

数値化できない価値をどう共有するか

▲CCBTスーパーバイザーでもある宮坂学 東京都副知事

後半のディスカッションでは、「これからのコモンズ」や公共性の評価の難しさが議論されました。多くの公共事業が数値による評価を求められる中で、文化的な豊かさは必ずしも数値化できません。
そこで提示されたのが、KPI(Key Performance Indicator)ではなくKTI(Key Transformation Indicator)という考え方です。

▲CCBTの運営委員でもある東京科学大学教授の野原佳代子さん(右)

「翻訳」をキーワードに研究をしている東京科学大学教授の野原佳代子さんは、変化をアーカイブし続けることの重要性を指摘しました。人や場がどのように変化したのか、そのプロセスを丁寧に記録し、言葉として残していくこと。
完成や成功を示す指標ではなく、変容の積み重ねそのものを共有する視点が、公共空間には求められているのかもしれません。

問いを街にひらくということ

原宿という街は、常に新しい表現が生まれ、試され、更新されてきました。CCBTがこの場所で目指しているのも、正解を示すことではなく、問いを街にひらくことです。
4人の話から浮かび上がったのは、公共の場は使われながら変わり続けるものとして捉える視点でした。渋谷公園通り2040の構想も、CCBTフェーズ2の取り組みも、その問いは今まさに進行形です。原宿から始まるこの対話が、都市の未来にどのような変化をもたらすのか、注目が集まります。

■イベント概要
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]Phase 2―東京に社会実験を引き起こす
会場:LIFORK HARAJUKU(渋谷区神宮前1-14-30 WITH HARAJUKU 3F)
日時:2025年12月13日(土)14:10〜15:10
登壇者:津川恵理(建築家、ALTEMY代表)、野原佳代子(東京科学大学 環境・社会理工学院 副学院長・教授)、宮坂学(東京都副知事、CCBTスーパーバイザー)
モデレーター:小川秀明(CCBTクリエイティブディレクター)

◾️CCBT(シビック・クリエイティブ・ベース東京)
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-4 1/1(ONE) HARAJUKU “K” B1・3F
(2025年12月13日に東京都渋谷区宇田川町3-1 渋谷東武ホテル地下2階から移転)
営業時間:火〜日曜日 13:00〜19:00
定休日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日が休館)
年末年始や保守期間など、その他の臨時休館がある場合もあります
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]公式サイト

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