南青山から世界を股に掛ける革新的なデザイナー 一法師拓門さん

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日本のクリエイティブ業界を牽引するデザイナー・クリエイティブディレクターの一法師拓門(いっぽうしたくと)さん。独自の美学と革新的なデザインアプローチで、幅広いプロジェクトに携わっています。今回はそんな拓門さんを様々な角度でインタビューをさせていただきました!

自然と共に過ごしていた幼少期

ーご出身はどちらですか?
「兵庫県川西市出身です。川西は兵庫県の端で大阪府との境に位置するので都心にも近いのですが、自然が豊かで、幼少期は体を動かしたりアクティブな遊びをたくさんしていました。セミの抜け殻とか探していましたね」

「同郷にはキングコングの西野亮廣さんや『トイレの神様』のKa-Na(植村花菜)さん、女優でピアニストの松下奈緒さんなどがいらっしゃいます。表現をする人が多いですね。生活圏は自然豊かだけど、少し足を伸ばせば宝塚や梅田に行ける場所がちょうどよかったのかもしれません」

ーーデザインとの出会いはなんですか?
「一番最初の興味はファッションなんです。洋服を身に纏うとその洋服1つで雰囲気がガラリと変わるじゃないですか。人間が最も身につけるデザインって洋服で、しかもかなり面積が大きいので面白いなっていうのは高校生くらいから思い始めていて、洋服のデザイン学校に通って今に至ります。ファッションブランドに就職し、その中で与えられた仕事の1つがグラフィックデザインでした」

「何をプリントするかや、どんなロゴをデザインするかを考えることに、自分の需要があるということに気づくことが出来たので、そこからはファッションだけでなくもう少し広い領域でデザインをやるようになりました。22歳の時です」

ーー高校卒業後すぐに海外に行かれたんですよね
「多分変人なんですよ(笑)多少格好付けたかった部分はあったかもしれませんが日本があまりしっくりきませんでした」

「デザイナーやクリエイターを目指すにあたってやったことは、色々な世界の有名なデザイナーのリストをノートに書いていたんです。どういうデザイナーがどういうことをしてどう評価されて、どこの学校を出てみたいなデザイナー分析ノートのようなものを自分で作って、調べていくと、この国のこういう学校を出た人が多いんだとかわかってきてやっぱり海外行ってみたいなと思うようになりました」

デザインに懸ける想い

ーー趣味はありますか?
「仕事が趣味みたいなところはあります。僕はgiveの精神を大事にしていて、尽くすという感覚でデザインをやっています。自分の作りたいものを受け入れて欲しいというよりかは、”相手の中にある「何」かを最大限引き出してデザインすること”が趣味です。どれだけ相手の持つ潜在的なデザイン要素を引っ張り出せるかや、一つの議題においてどういう向き合い方でデザインを作れるかを考えることが楽しいです」

「自分の武器であり意識していることは、徹底的に相手をヒアリングすることですね。デザイナーだけでなく色々な仕事に共通する部分だと思いますが、相手のことを十分に理解しないとデザインはできないです」

ーー拓門さんにとってのデザインとは?
「僕の中ではデザインはソリューションです。自分が思うアートとデザインの違いはそこで、アートはソリューションというよりそれだけでも存在価値があって、一方で存在価値が何かしらのソリューションになるのがデザインだと思っています。ソリューションを作る部分が得意です」

ーー思い出に残っているエピソードはありますか?
「デザイン経験を積んでいるアシスタントやインターン時代、自分の色をどうやって出すかとばかり考えてたんです。人と違うことをやろうとしてた時期がありました。”人と違うものを作ればそれがおしゃれ”、”誰も見たことないものをデザインできればそれがいい”っていうふうに考えてた時期があって、そのときは結構しんどかったですね。辛さを今でも覚えてます」

「今は、自分らしさって作ろうとして出るものでなく勝手に出てくるものだと感じていますが、当時はとにかく爪痕残そう、誰よりも存在感を出そうと色々考えてしまうので、結果的に張りぼてなデザインになってしまうなぁという感じでした。本来の自分を出せなかったですね。評価されなくて悩んだ経験は覚えています。常にストレスがあって、いつも口内炎があって、一生アシスタント止まりなのではないかと悩んでいた時期がありました」

ーーそこからどのように解放されされましたか?
「ファッションブランドに所属してデザインをしていた頃、うまくいく瞬間もあったのですが総じてそのときは思うようなクリエイティブができず悩んでいて。そんな僕に対して、元々知り合いだった1人の経営者さんが、「拓門くん、最近グラフィックやってるでしょ?うちの新事業のロゴ考えてよ」と言ってくれたんです。普通に嬉しくて引き受けたのですが当時会社員だったのでボランティアでやりますよと伝えたら、「無料でやって欲しいのではなく仕事としてお願いしたい」と言ってくれて。その方にとっては僕への期待を込めたベッティングに近かったかもしれませんが、自分に対して価値を感じてくれるというか、何かを託してくれるという感覚がとても嬉しかったんです」

「その時に、今まで自分よがりにデザインしてたから上手く行かなかったんだと気づきました。人のために全力でデザインをしたとき自分の中で覚醒があった気がしました。この仕事はデザイン的にすごくうまくできたんですよ。これまで何回かうまくできたシチュエーションはありましたが、成功の理論は理解できていなかったんです。こうやると、自分がデザイン力を発揮できるんだという強みを理解できた瞬間が解放された瞬間ですね」

「お願いしてくださった経営者さんの友人経営者さんがロゴを見て、僕にまたロゴ制作をお願いしてくださって、紹介紹介が繋がっていきました。2、3人続いたタイミングで純粋にデザインが楽しいなと思うようになりました」

人との繋がりを大切にする

ーー社名「ConcePione(コンセピオン)」はどのような想いですか?
「相手の気持ちを言語化してデザインをする作業はコンセプトを掘り起こしてるような感覚だったんですよ。僕はデザイナーはシェフだと思っています。クライアントさんはいい素材を持っていて、それをこちらで調理しますよという感覚なので、相手からコンセプトを掘り起こして、開拓者になりたいんです。どんどん相手にとってのコンセプトパイオニアになりたいと思い、ConcePioneになりました」

ーーファッションの世界からグラフィックの世界へ、葛藤はありましたか?
「なかったですね。むしろファッション以外の広いデザインジャンルに関わるって楽しいなという新しい発見でした。クリエイターっていうものが、1つのジャンルだけでなく、マルチなジャンルのクリエーションで活躍できる世界になってきてる気がします。突き詰めていけば、どのジャンルでもクリエイターにとっての大事なことは一緒な気がしてます」

ーーチームで仕事をする楽しさはありますか?
「僕が育った環境が元々チーム体制だったので当たり前のようにチームを作るという考えはありました。デザインは料理だと思ってるので、人それぞれちょっとした隠し味や調味料の配合の仕方とかが違うわけなんですよね。チームでやることによる新たな発見やお互いの死角となっている角度からの視点を埋める。クリエイターとしてお互い刺激し合えるのが、チームとして一番いいところかなと思います」

「個人的な性格として1人だと不安になってしまうんですよ。定期的にテイスティングして欲しいのでこまめにコミュニケーションを取りながらデザインをブラッシュアップしています」

ーーチームにおける思い出に残っているエピソードはありますか?
「全員で体験を共有することを意識しています。旅行もみんなで行きます。デザインでいただいたお金を使ってさらに良いデザインを返せるように、特別な経験をしに行こうみたいな感じですね」

「たまに人物相関図を社員みんなで書くんですよ。新しく入ってきてくれたメンバーが僕の人脈の広さに驚くことがあって、自分はそうなれないと思ってしまうケースがあるんです。しかし元から繋がりがあった訳ではないので、人物相関図で、この人は誰に紹介してもらった、この人はこっからで……と辿っていくと一番最初の人ってただの友達級のちょっとした先輩なんですけど、その人から繋がったご縁がドーンと広がってるっていう結論があって。なのでみんなの友達で凄いとか凄くないとかじゃなくて、何気なく今一緒に過ごしてる人からの声かけで、大きく繋がりが飛躍することになるかもしれないよというのはすごく言ってます。全部が分岐なんですよ」

ー休日はどのように過ごしていますか?
「行きたい展示会があったら美術館に行ったり本屋さんに行ったりすることが多いですね。リフレッシュ方法として都心から離れることもあります。ひんやりする場所の方が僕は頭がすっきりするので軽井沢や北海道などよく行きます。一人だけでなく社員のみんなで行っています」

「最近は仕事の前にジムに行く朝活を始めました。これも社員みんなのルールにして、朝8時にスポーツジム集合です(笑)」

南青山から世界へ

ーー刺激を特に感じたお仕事はありますか?
「刺激は毎度感じていますが、特に一皮剥けたなと思ったのはダンスのスポーツリーグ、Dリーグのチームロゴの制作です。ダンスはまさに今年のパリオリンピックから正式種目になったし、若いアーバンスポーツな一面もあって。チームロゴなんて一番大事なものですよね。依頼してもらったときは、もちろん高揚感もありますけど責任の重さもありました」

©Valuence INFINITIES

ーー日本を代表するチームのエンブレム、刺激的ですね
「僕自身コロナ禍で日本に戻ってきました。コロナが終わったから海外に戻らないの?とよく聞かれるのですが戻る気はなくて。理由は、強い日本をデザインから作りたいというのが僕にはあるんです。「あの頃は」っていうフレーズから始まる昔話をたくさんされるじゃないですか。「あの頃は」の話はもういいから、今後日本がワクワクするとか、強い日本をデザインから作ろうよというのが僕が思ってることなので、頂いてきているお仕事は、まさに自分のやりたかったビジョンと挑戦とか合致しているのでとても刺激的ですね」

ーー仕事をする上で一貫して心がけていることは何ですか?
「とにかく相手を大切にし、自分たちを押し付けないこと。そして相手の創造性を解放できているか。アンロック・クリエイティビティと呼んでいるのですが、例えばデザインを提案した時に、見た人がクリエイティブな気持ちになってくれるか、クリエイティブって楽しいなと思ってくれるか、これがアンロックだと思っています。つまり相手をどれだけ巻き込めるかというところを意識しています」

「ヒアリングの時間は長めに取っていますね。その人が働く場所で話すなどして理解を深めています。『北斗の拳』の原先生と親交を持たせていただいているのですが、原先生が「現代は親を知らないデザインが多い」と言っていて、例えば今、世紀末の漫画を描くときに、主人公たちの世紀末の世界の服装は、既にこれまでの先駆者的な漫画家さんたちが描いた世紀末の服装を見て、世紀末ってこんな服装だな自分もそういうふうに描こうってなっちゃうんですよね。これに対し先駆者たちは目に見えるリファレンスがなかったので想像するしかなかったと。世紀末はこういう感じで、気温はこれぐらいだから、マントの生地は硬さがとかそういうのを細かく考えながら描いていたと。これを聴いてデザインにおいてとても大事な価値観を得ました。すごい人とすごくない人の差を分けてるのは、理解力や想像力で、なぜこう表現しないといけないのかまでを考えているかということなのかなと思います」

ーー青山学院大学主催のファッションサークルAOYAMA FASHION ASSOCIATION(以下AFA)の顧問をやられていますが、学生さんたちと関わり続ける理由はなんですか?
「学生たちと関わり続けている理由は、一貫して日本を良いデザイン大国にしたいという想いですね。大谷翔平くんに憧れて野球を始める場合もあるじゃないですか。学生たちにとってはまだ僕の年齢だと等身大なので、自分もクリエイティブやってみようかなと思ってくれるきっかけを与えられたらいいなと感じています」

ーー新しいプロジェクト「TAKT」はどのようなブランドですか?
「オーダースーツのブランドなのですが、僕は歴史が好きなんですよね。古い側になりかけてるスーツを、自分が何か手を加えることによって、新しい見せ方としてやれたらいいなと思って立ち上げました。オーダースーツが好きで、顧客の顔が見えるので、その人その人のために作りたいなと思ったんです」

「自分の中でスーツを作る段階をアートワークに位置づけています。クライアントワークは相手をすごく尊重して相手の中から引き出すので答えは相手にあるのですが、自分に答えがあるデザインもデザインだと思っていて、それをアートワークと考えています。いつかファッションショーも開催したいですね。これもアンロック・クリエイティビティだと思います。着た人がクリエイティブな気持ちになるとか価値観を変えていくようなものになりたいです」

ーーこの場所から世界に羽ばたくブランドが立ち上がったのですね。どうして南青山をオフィスに選んだのですか?
「言語化しづらいのですが、フィットしてるなと感じています。南青山に拠点を置いてからいろんな出会いがありました。自分の分岐がたくさん生まれたのは、南青山に移ってからなので、願掛けみたいなところもあります」

「前のオフィスも南青山ですが、今のオフィスもみんなで相談して決めました。日本のデザイン事務所は渋谷に拠点が多いイメージですが、自分たちは間違いなく南青山がルーツだと感じています」

ーー原宿・表参道はどんな場所ですか?
「原宿はカルチャーの交差点で、表参道は自分が一歩背伸びしてついて行く場所。良い意味で常に危機感を感じられるし燃える原動力になります。周りを見渡せばいいものばかりなので、そういう世界の中で自分も頑張りたいなと思える場所です」

「一法師拓門やConcePioneが表参道のイメージになってくれたら嬉しいです。この地を代表するデザイナーになりたいと思います」

南青山から世界という大きなフィールドで活躍する一法師拓門さん。デザインから日本を強い国にしていきたいという熱い思いに胸を打たれました。高校卒業後、海外に飛び込んだ拓門さんの行動力、ファッションからグラフィックデザインに転向した経緯や、クライアントの本質を引き出すことを重視するデザイン哲学、とても興味深くお話をお伺いできました。本当にありがとうございました!

プロフィール
一法師拓門
グラフィックデザイナー、クリエイティブディレクター
デザイン事務所ConcePione(コンセピオン)代表
日本を代表するZ世代クリエーターとして多くのデザインプロジェクトにおいて活躍。
国内外のファッションブランドでデザイナーとして従事した後独立。グラフィックデザイナーとして多くのロゴや広告、ファッショングラフィックをデザインし、現在はブランド戦略のディレクターとして、ナラティブの構築からコンセプト設計などのCI開発、ビジュアルデザイン、VI制作まで一貫して手がけている。2022年より自身のアートワークにも打ち込んでいる。

Instagram : https://www.instagram.com/takuto_ipposhi/
ConcePione HP : https://concepione.com/
TAKT SUIT : https://taktcreative.com/

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