大手起業を辞めてフェムテック事業で起業に至った若き女性起業家 株式会社nanoni 張聖さん

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近年、様々な場所で聞くことが多くなった、「フェムテック」。女性の健康や身体をめぐる課題を最新の技術で解決しようという動きです。
そんなフェムテックに特化した、国内初の福利厚生プラットフォーム「carefull」を提供する株式会社nanoni代表の張聖さん。
張さんの学生時代のことから、起業をしたきっかけ、想い。これからの活動まで、様々なお話を伺いました。

趣味に没頭した学生時代

ーー小中高はどのような学生でしたか。

友達作りにすごいパッションを持っていた学生だったかなと。中国から引っ越して来たので小さいときは日本語もわからない状態でお友達を作らなきゃいけなかったりしました。転勤も多かったので、そういった環境の中でも面白いことをしていきたいとか、そう思ってもらえる人間になりたいっていうのが結構強かったなって思ってます。

ーー高校は慶應義塾女子高校に進まれましたが、勉強は得意だったんですか。

勉強は得意です(笑)でも、それも少し不純な思いがあって、小学校や中学校のとき周りがみんなアイドルが好きで、私は正直そんなに好きでもなかったんですけど、話を合わせるためにコンサートに行ったりして、それで友達をつくったりしていました。それをしていたら、だんだん本当に好きになってきて(笑)
高校に進学する時に、大学の附属高校に行けば、高校生活ずっとオタ活できると思って、高校受験を必死に頑張りました。

ーー大学に入って社会活動を始められたんですか。

大学では暇だったんですよね(笑)それで何をしようかなと悩んでいるときに、たまたま先輩が「Room to Read」公認の学生団体を立ち上げたということを知って。
途上国の子供たちが学校教育を受けられる機会に繋がるとか、社会にとって良いことができるって素敵だなと思って私も参加しました。

マイノリティだと感じていたことが、当たり前の環境に。

ーーその後、Googleに就職されたそうですが、起業は考えなかったんですか。

その時は全然考えてなかったです。その段階ではやりたいことがわかっていなかったんです。それでいろいろな業界の企業に、10社くらいインターンをしてみました。
その結果、外資企業で、働いている人が素敵な企業ということを軸に就職活動をしました。
私は中国人なのにずっと日本育ちで、海外の留学経験がなかったので、どこかにコンプレックスがあったんですね。それで日本のカルチャーだけじゃない環境に身を置いてみたいなというところが、外資企業を志望した理由です。

ーーコンプレックスってのは具体的にどのようなことですか。

「張」っていう名字でいかにも中国人なんだけれども、日本の学校にいる時はそのことがすごくマイノリティだと感じていました。
そのようなことがマイノリティではない環境に身を置いてみたい、自分と似たような人とも知り合えそうかなと思って。
何を仕事としてやるかよりも環境重視で最初の会社を決めました。

ーーそこから転職すると決意したのはどのような理由なんですか。

最初就活してた当時はまだ明確にやりたいことがわからなかったので、自分で仕事を選べる外資企業に就職して、どこかのタイミングではやめるんだろうなと思いながら働いてました。
仕事を通じて、クライアント先で0からビジネスを起こして成功したスタートアップ企業をたくさん見させていただく機会があったので、面白そうだなって思い、スタートアップにすごい興味を持ちはじめました。
スタートアップの情報収集をしていた中で、ボランティアにも参加していました。
この人スタートアップに興味あるぞっていう認識を、ちょこちょこ周りからしてもらい、エンデバーというニューヨークのNPO団体が日本で立ち上げるっていうタイミングで声をかけてもらったという感じです。

ーーそこではどのようなことをされていたんですか。

エンデバーは支援先のスタートアップを選定して、選んだところに対してグローバルで4000名以上いるメンターネットワークを活用し、いろいろなサポートを提供していくという団体です。私のメインの仕事は日本のスタートアップで有望そうなところを見つけるということだったんですが、エンデバーがまだ日本で有名ではなかったので、団体の魅力を伝える営業活動に近い感覚でした。

ない市場にチャレンジするということ。

ーー起業するきっかけとなったことを教えていただきたいです。

明確にあったというよりは、じわじわって感じだったんです。
Googleにいるときに次第に興味が湧きました。支援する側にいると自分もやりたいってなるんですよね。
起業は10社あったら存続できるのは1割っていう風に言われてるんで、内容はもし失敗しても続けられるテーマがいいと思ったんですね。
少し前に子宮にまつわるようなトラブルを経験して、同じように悩んでる人がたくさんいると思い、そこをより良くしていきたいっていうパッションが湧いてきて、それで、女性の健康課題領域に定めました。

ーーそれは1人で始められたんですか。

友人はサポートしてくれましたが、基本的には1人で始めました。仲間を誘うのが怖かったんですよ。
私がやりたい女性の健康課題はNPOっぽい要素もあって、ビジネスとして成立するかわからない中でやり始めたんですね。
ちゃんと続けられる未来が見えたら仲間を増やしたいなと思ったんですけど、なんかそれまでは申し訳ないなっていう気持ちが大きかったですね。
今は業務委託も含めると20人くらいです。

ーー会社を立ち上げてからの活動で、1番印象に残ってることはありますか。

女性の健康支援×福利厚生という「ない市場」を作らなきゃいけなかったことですね。
でも「ない市場」にチャレンジするっていうのは逆に言うとやってきた人もいないから、やり始めて半年、1年ちょっとで、業界の中で詳しいと言われる人になってくるんですね。
いろいろな企業さんからお声をかけていただいたりとか、日経新聞さんに取材をしてもらったりとかはびっくりでしたね。新しい市場ならではの経験だったなと思います。

ーー普段は主にどういうことをされているんですか。

今、やっているサービスは、月経、妊活、更年期領域の研修やオンライン診療などのクーポンを福利厚生として提供しています。
女性にとっても働きやすい職場環境にしていかなきゃいけないっていうのを、NOという企業はいなくて、全部の日本企業がやりたいと思ってることなんですけど実行できていないところが多いんです。
そう言った企業に対して、それをどうやっていくかのコンサルテーションだったり、実際のサービス実装までワンストップで提供することで、その対価としてお金をいただいています。日々の仕事で言うと法人営業やまだまだ、スタートアップなので、プロダクトの開発などですね。

ーーチャレンジするのはこわくないんですか。

私の中ではリスクをどこまで受け入れられるかを考えますね。たとえば起業して、うまくいかなくて、会社を畳むってなった時に、自分の場合は再就職して、また、戻ればいいかなという、いくつかのワーストケースを想定しています。許容できるリスクと、やってみたいチャレンジに対して後悔しないかを天秤にかけてます。

「選択」ができる環境を。

ーー学校で日本のジェンダーギャップ指数が低いというニュースを見て、それを初めて知ったクラスメイトが驚いていました。これからどういう意識改革が必要だと思われますか。

そもそも女性の本人が、働きたい、働き続けたいと思うかですね。
結婚したら、できたら仕事をやめたいっていう方と、続けたいんだけれどもいろいろな理由で続けられない方という2つの側面があるなと思っています。
前者に関して言うと、日本が豊かだということがあると思うんです。
欧米などでは、ダブルインカムでないと経済的に生活が苦しく、辞める選択肢がないんですね。
日本だと両方が働いて、シッターさんを呼んだりして子供を預けたりするお金よりも、一方が家に入って世話をした方がいいとかいろいろな選択肢があるからこそですね。
私はそのような価値観を変えたいとかは思っていないので、自分のやろうとしているのは、働きたいんだけれども働き続けられない人たちをサポートしたいなと思ってます。柔軟に働けるかというのが大きいかなと思っています。
日本は女性の方が販売職など、シフトで動いているような仕事をされているケースが多く、例えば子供が急な病気で休まなきゃいけなかったりということが続くと、仕事として成立しないわけですよね。
そうなった時に、他のもうちょっと柔軟に働ける仕事に移れるか否かが、その人が仕事を継続する上での大事なポイントになると思います。
もう一つは不妊治療が必要になってしまうと、病院に通わなきゃいけない、それと仕事とのバランスですよね。休みやすい環境づくりも大事ですが、本来は不妊治療が必要になる手前で食い止められたら、そのような悩みはなくなるわけですよね。
未然に病気を防げるように、健康課題周りの支援をしているっていうのが、今やっていることです。

ーー事前に対策をとるっていうのは大事ですよね。

かなり衝撃なんですけど、日本は不妊治療の効率が悪くて、体外受精の数は世界で1番多いんですけど成功率は低いんです。
人口が多いアメリカよりも、日本の方が体外受精をしている人の数が多いんです。
1番の理由は始める年齢で、例えばアメリカは早めにやらなきゃっていう知識もあるし、きっかけも多いんですよね。日本はそこが少ないです。
アメリカでは、今すぐには子どもを欲しくないけど、初任給を使って将来のために卵子凍結をするっていう方が出始めていて、そういう考え方とか情報量が大きく関係していると思いますね。
ピルの使用も避妊目的だけじゃなくて、生理不順を考えたりうまく向き合っていくためだったり。
日本ではピルの普及率が数%ですが、欧米諸国だと、20〜30%くらいですね。
そして妊活だけじゃなくて、40〜50代になったら更年期と言われるものがあって、そこも同様に知識がなくて、対策ができてないですよね。
対処法みたいなものはいっぱいあるので、そこをいかに普及させられるかにもチャレンジしています。

ーー最後に若者に向けてメッセージをお願いします。

私自身も過去に知識がなくて病気にかかった時に怖い思いをしたことがあったので、健康診断や、痛い時に我慢せずにクリニックを受診して早期発見していったり、後悔をしないために、健康課題を意識してもらえたら嬉しいなと思っています。
あとこういう領域に興味がある方がいれば、インターンなど一緒にできたら嬉しいです。

ーー本日はありがとうございました。

編集後記

フェムテックについて詳しく知ることができ、自分ごととしてとらえていきたいと思える良いきっかけとなりました。張さんの行動力の凄さにはとても影響を受け、学生時代のお話には親近感が湧き、貴重なお話をたくさん伺うことができてたのしいインタビューとなりました。

略歴

張 聖(チョウセイ)

1990年、中国生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。Google Japan 広告営業部にてカスタマーサクセスや SNS・ウェビナーのローンチを担当。発案した企画は APAC 全体で展開され世界で上位5%の評価を得る。その後、部門初の女性社員として顧客開発部に移り、新規営業を担当。部のダイバーシティー推進に貢献した。世界最大級の起業家支援NPO Endeavor の日本支部立ち上げを経て、2020年、株式会社nanoni を創業し代表取締役に就任(現職)。

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