原宿・キャットストリートにあるコーヒーショップ、THE ROASTERY BY NOZY COFFEEのバリスタ押本陸さん。
後編では、押本さんのバリスタを志したきっかけや、コーヒーを通じて描く将来の夢について伺い
ます。お店の魅力やバリスタの仕事について伺った前編はこちらをご覧ください。
コーヒーが楽しいという気持ち
「僕が仕事としてコーヒーと向き合ったのは18歳の時、スターバックスでのアルバイトが始まりでした。
『楽しそうだから』くらいの軽い気持ちで入ったんですが、とにかく接客が苦手で。
カスタマイズに詳しいお客さんは怖いし、バーに入るとレシピは飛んでしまう。裏で皿洗いしてるのが一番気楽でいいなと本気で思っていました。
でもある時、少しだけコーヒーの勉強をしてみたら、それがお客さんとのコミュニケーションに生きたことがあったんです。
自分の知識でお客さんを助けられた。
今振り返るとその時の嬉しさが、コーヒーに没頭するようになった最初のきっかけかもしれないですね」
「当時は建築を学ぶ専門学生でした。建築に興味を持つようになったのは、中学生の時。実家を建てるタイミングで建築士の方に図面を見せてもらったりして、物作りの裏側やデザインの分野に惹かれるようになりました。
僕、元々人とのコミュニケーションが苦手で。友達もあまりいない、一人で自分の世界に没頭しているタイプの子どもだったんです。
でもコーヒーは、コーヒーのことを知っているだけで、誰かと同じようにコーヒーの話ができる。少なくともコーヒーを楽しみにしているお客さんだったら、コーヒーの話をすればコミュニケーションが取れます。
でもそれはお客さんだけではなく、同僚や上司でも同じです。
自分に知識さえあれば、コーヒーは居場所を与えてくれる。
なら勉強しよう、ということで僕はコーヒーにのめり込んでいきました。」
「4年生になり同級生が就職活動を頑張っている中、僕はコーヒーがすごく楽しくて。
もちろん周囲からは『せっかく建築の勉強したのにもったいない』と言われましたし、それは当然だと思います。
本当に建築の道に進むのか、このままスターバックスに就職するのがいいのか、昔ながらの町のコーヒー屋さんがいいのか、右も左もわからなくて。
そんな中、“スターバックス出身の人たちが始めたコーヒー屋さんがあるから行ってみようよ”と友人が連れていってくれたのが、当時三宿にあったNOZY COFFEEでした。
NOZY COFFEEは、“シングルオリジン”というコンセプトを掲げ立ち上げられたコーヒーショップ。
そこで創業者である能城政隆と菊池伴武という2人のバリスタに出会い、進路や職業について相談しました。その時の2人との出会いがバリスタとして生きる事の決断に繋がり、それが人生の分岐点でした」
「建築とバリスタに直接の接点はないですし、建築の専門学校に行ったことも、結果的に見れば回り道だったと言えるかもしれません。
でも結局は自分次第。
繋げようと思えば繋げられるものだと僕は思っています。
例えば新店舗を出す時に、図面を見ただけでだいたいのイメージがついたり。
それから、常連客の方が新しく花屋さんを作る時のコンクリート打設を手伝ったということもありました。
コンクリートの配合計算書を見て、打設して、養生して、なんてことをバリスタながらにやるとは普通思いませんよね。
でもやっぱり、せっかく10代・20代の貴重な時間を使って学ばせてもらったことなので、生かせるところで生かしていきたいです」
コーヒーに国境はない
「コーヒーの魅力と一言で言っても、色々なものがあると思います。
もちろん美味しさはその1つでしょうし、それぞれの個性も大きな魅力です。
でも1番は、“良いコーヒーは良い人を繋いでくれる”ということじゃないでしょうか。
バリスタとして、美味しくて個性のあるコーヒーを追い求めていると、年齢・国籍関係なく素晴らしい人たちとの出会いが沢山ある。
一人で楽しいと思っていたことに仲間ができて、コーヒーでいろんな世界を旅できるような感覚ですね。
2015年に初めてニューヨークを訪れた時、自分で焙煎した豆を持って行って、現地のバリスタたちに飲んでもらったことがあったんです。
そしたら、『これはどう淹れるのがオススメ？』とか『実はこういうことに悩んでて……』という風に、コーヒーに関することをすごくフランクに話してくれました。
何となくそれまでは、海外はもっとコーヒー文化が進んでて、物凄いバリスタがいて……みたいなイメージがあったんですけど、全くそんな事はなく、とても親近感を感じました。
彼らも日々同じようなことにドキドキして、同じようなことに悩んでいる。だから、自分のコーヒーも世界に通用するし、自信を持って世界に出ていけると気づかされました。
この原宿の地にも、世界中からさまざまな人が集まってきます。
そんな人たちをも、国境を超えて繋げる力がコーヒーにはあるし、ここでしか生み出せないコーヒー体験が必ずあると思っています」
「もっともっと大きな話をすると、例えば、僕があまりコーヒーが栄えてない国に出て行って、その場所にNOZY COFFEEが根付いて。そこで生まれ育った子は、コーヒーといえばNOZY COFFEEだと思ってた、そんなところまでいったらすごいですよね。
今はまだ夢のような話かもしれないけど、能城が大学生でNOZY COFFEEを始めた時もここまで大きくなるとは夢にも思わなかったはずです。
やっぱり、夢を見なければ何も始まらないので。これからも、自分の知らないところ、新しい世界にどんどん飛び込んで行きたいです」
■THE ROASTERY BY NOZY COFFEE
東京都渋谷区神宮前5-17-13
（東京メトロ 明治神宮前駅 7番出口より 徒歩5分、東京メトロ 渋谷駅 13番出口より 徒歩15分、JR 原宿駅 より 徒歩15分）
TEL：03-6450-5755
Web：https://www.tysons.jp/roastery/
[平日・土日祝] 10:00～20:00
