令和3年度より、ICT活用など様々な分野で新しい取り組みを展開している渋谷区立原宿外苑中学校。
そこで校長を務める、駒崎彰一先生にインタビューをしました。
未来に繋がる、ドローンの知識と経験
ーー原宿外苑中学校では、色々な取り組みをされているそうですが、具体的にどんなことをされているのですか?
技術の時間に生徒たちがドローンを使ったプログラミング授業を設けています。
プログラミング授業は、生徒同士がグループになって行います。プログラミングは一人ではなく複数人で試行錯誤しながら学ぶのがポイントです。飛行ルートをチームで設定して、ゴールを目指すという授業を展開しました。ドローンは、飛行機等と一緒で、風の影響等の外的要因をすごく受けやすいのでプログラミング通りに動いてくれないのがまた面白いところなんです。
そして、将来、実際にドローンを操縦したことがあるという経験やチームで試行錯誤して課題を乗り越えるという経験は、さまざまな面で生徒の強みになると思います。
そういった意味で、私たち原宿外苑中学校の教員は生徒の知識と経験(実体験)をつなぐことが大切だと考えて授業づくりをしています。
授業を受けた直後は内容を覚えているけれど、テストが終わったら全て知識を解答用紙に落として、忘れてしまうのではなく、しっかり頭の中で持ち運びができて、今後課題が出てきたときに知識を使って解決できるような知識じゃないと、おそらくそれは学んだことにならないと思います。なので、生徒たちの知識をつなぎ合わせ、学びを深める作業をこれからは学校の授業でしていくべきだと考えています。
そして、教科書を使った授業は、教科書をただ教えて終えるのではなく「教科書で何ができるか」という視点で授業づくりをしています。生徒たちはどこから芽を出すかわからないので、いかに知識と経験を繋げることができるのか、色々タネをまいてみているところです。
マメ(味噌づくり)プロジェクト
ーー他にも、知識を経験に繋ぐために行われている取り組みなどはありますか?
有志生徒が校庭花壇で育てた枝豆から、大豆を収穫、そして味噌づくりまで行う「マメ(味噌づくり)プロジェクト」を2022年にスタートしました。
2022年の4月にタネを蒔き、その種が6月に枝豆になったんですけど、そこから夏まで成長を待つと、豆がカラカラになって大豆になるんです。
そして大豆を収穫して、9月に生徒たちの有志と一般のボランティアの方とで味噌作りをしました。最後に、参加してくれた生徒にはできた味噌を分けたり、給食の味噌汁として提供したりするなど、みんなに食べてもらいました。
他にも、2年生の技術・家庭科で大根づくりに2021年度から取組んでいます。原宿という場所柄畑がないためビニール袋で栽培したところ、予想以上に大きい大根が収穫できたので、各自、家に持って帰って食べてもらいました。2022年度からは、地域の様々な方々との協働で「もっとサステナブルに大根づくりをしよう! 」ということになり、2022年度はビニール袋を麻袋に変えて実施してみました。
麻袋は、天然繊維ですので土に戻る素材。なので麻袋を土に戻すところまでを生徒たちの学びに繋げようということです。麻袋もただ新しいものをもらうだけではサステナブルに繋がらないので、廃棄されるはずだったコーヒー豆の輸入用の麻袋を大量にいただきました。
大根収穫後は、麻袋を切り刻んでコンポストに入れ、堆肥として土に戻そうという取り組みに進化をしています。
この取り組みは、2023年度になって、やっと軌道に乗ってきた段階です。最近は2022年度に使った麻袋が堆肥になってきたので校内の土置き場に移動させて、2023年度の2年生が使うまでに良い土になるのを待っている状況ですね。このサイクルを循環させていってどんどん良い土にしていこうと活動しているところです。
これからの学校、特に渋谷区の場合、新しい学校づくり(改築)が進んでいくと施設自体も地域の拠点になると思います。施設が変わるのなら学校の教育自体も変わる必要があると考えていますので、今はいかに地域の方に向けて学校を開き、地域の方と協働していくかというところを大切にしていきたいと思って活動しています。
前述のマメ(味噌づくり)プロジェクトも、生徒だけでなく、地域にも開放しているため、地域の方も毎回参加してくださっています。
地域との繋がりが学校を起点に広がってほしいと考えています。例えば、学校で作った土を持ち帰って、地域や家庭で大根や大豆などを育てて頂いてもいいと思いますし、色んな展開に広がっていけば面白いなと思っています。
今は給食残滓(ざんさい)もコンポストを使って上手く堆肥にできないかと地域・家庭・学校で協働し試行錯誤しているところです。給食の残滓を入れると出てしまう匂いに悩んでいたところ、コーヒーの搾りかすを入れることで匂いを消せるということがわかり、原宿駅にある「猿田彦珈琲 The Bridge 原宿駅店」さんに相談したところ、提供していただけることになりました。これからどうやって、地域社会の中で持続可能な取組として展開していくことができるかを考えているところです。
この地域は本当に色んなスペシャリストがいますのでさまざまなことが展開できます。地域と関わっていると関わった人から人へと情報が繋がって広がり、新しい企画などがシームレスに実現できています。
ーー渋谷区では、生徒に一人一台のタブレット端末を貸与されているそうですが、それを活用した取り組みなどはありますか?
タブレット端末自体の使い方は、世の中の使い方に合わせたほうがいいと私は思っています。自分で考えて必要な時に使うのが情報端末のはずなので、授業に無理矢理組み込むのではなく、スマホを使っている時のような感覚で学校でも使えるようになるのが理想だと思っています。
学校の授業でタブレット端末を扱う時ってみんなで一斉に同じ画面を開いていませんか? でもそれって「やらされ」て結局同じ画面を開いているだけで、生徒自身の活用能力にはならないと思うんです。
なので、本校では、一人ひとりが「必要なときに必要なものを開く」という考え方を進めています。授業中などは、各自で違うアプリを使っていたりします。例えば、何かを提出するときに、ノートで提出する子がいたり、写真で提出したりする子がいたり、タブレット端末に打ち込んで提出する子がいてもいい。黒板を書き取るのが苦手な子は黒板の写真を撮ってもいいと思います。自由に使って、使い倒してもらうために生徒にタブレット端末を渡しています。
そうしていく中で情報モラルなどについても教えていけたらいいと考えています。ここは撮っちゃだめだよとか、これはアップしたらまずいよねとか。そういう分野は教員だけだと難しいので、情報モラル教育の専門家に入ってもらったりもしました。
ーー2023年3月4日に、ごみ拾いボランティアと一緒に原宿外苑ローラー大作戦を行われていましたが、「ごみ拾い」を教育に繋げてみてどうでしたか?
生徒や保護者から頂いた感想は人それぞれでした。でも、原宿外苑地区は人が集まる街ですので綺麗な街であり続ける必要があるという意識がきっと生徒たちにもあるのでしょうね。ローラー大作戦当日は一生懸命ごみを拾っていました。
これからの時代、どんな風に世界が変化していくかがわからない。でもそんな状況で何もしていないのって後退しているのと同じだと思うんです。
なので、生徒にも教員にも言っているのは「失敗を恐れずとにかくやってみること」です。失敗を恐れて何もしないより、失敗から学べたほうが絶対にいいと思うので。
やってみることの一つとして、このごみ拾いイベントや、先ほど紹介した取り組み以外にもいろいろと挑戦しています。
インタビューを終えて
今年高校生になった筆者のさおは、今回のインタビューを通して、今まで何も考えずただ覚えるものとして聞いたり目を通していた授業や教科書の知識について考え直すことが出来ました。
今回の記事には収めきれない数々の取り組み。その勢いを止めることなく、前進し続ける駒崎校長、そして原宿外苑中学校に、要注目です!
◾️駒崎彰一 略
私立高校の保健体育科の教員としてスタート。その後、東京都葛飾区、品川区立中学校3校で勤務した後、葛飾区教育委員会事務局指導室指導主事・教育CIO補佐官を務める。江東区立中学校の副校長を経て、荒川区教育委員会事務局指導室統括指導主事を3年間務めるなかで、基礎自治体初の学習者1人1台端末の導入を担当する。その後、葛飾区教育委員会事務局指導室統括指導主事を経て、中野区立緑野小学校長。文部科学省・総務省・経済産業省「未来の学び」コンソーシアム運営協議会委員、文部科学省ICT活用教育アドバイザー、デジタル教科書活用検討委員を務める。渋谷区立笹塚中学校長を経て、現職。現在は、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員も務める。
職務と趣味を兼ねて、デジタル一眼レフ、ドローン空撮やVR(3Dカメラ)などによる映像編集を学んでいる。